MUSIC音楽

INTERVIEW

今回、「東京シティ・バレエ団創立50周年記念公演『白鳥の湖』~大いなる愛の讃歌~」の指揮をされることになったきっかけを教えてください。

2017年9月 音楽打ち合わせ(洗足学園音楽大学スタジオにて)

東京シティ・バレエ団理事長の安達悦子さんと私は小学校の同級生で、卒業後も何かに連れ、お互いの修行する過程を見続けてきました。
今回、バレエ団50周年の記念事業について安達理事長から話を聞いた際に、藤田嗣治の舞台装置による1946年の『白鳥の湖』復活上演を計画中ということを耳にし、まず、そのようなものが存在することに驚き、詳細を聞くうちに、是非協力したいと、私の方から申し出ました。

また2018年が、藤田嗣治自身の没後50周年にも当たるということで、東京シティ・バレエ団と、“藤田白鳥”の不思議な縁も感じざるをえません。
このプロダクションの実現に関しては、藤田の舞台美術家の面に大きく光を当てた、故佐野勝也氏の研究書「フジタの白鳥」が原動力になっていることも書き添えたいと思います。

チャイコフスキー三大バレエ音楽『白鳥の湖』の音楽の魅力を3つ挙げるとすれば、どのようなものがある、と言えるでしょうか?

1。子供の頃から録音で白鳥の湖の抜粋の音楽を聞いて、大きな憧れを持ちました。
それはサヴァリッシュ指揮、フィルハーモニア管弦楽団の演奏で、華麗にして情熱的演奏でした。特に胸に迫る音楽、哀調を帯びた音楽と感じました。

2。その頃、何度か来日していた、レニングラード・バレエ公演をテレビで鑑賞する機会に恵まれ、ナタリア・マカロヴァ、カレリヤ・フジチェヴァといった名手たちを知り、ロシアバレエに対して、チャイコフスキーの音楽に対して新しい認識も生まれました。特に、見事な音楽的構成、また、踊りと音楽の深い結びつきについてです。

3。『白鳥の湖』は、チャイコフスキーの、鋭く繊細な感性、ドラマチックな音楽構成、踊る音楽としてのヴァラエティー、全てを兼ね備えているバレエ音楽の頂点を極める作品だと思います。

通常のオーケストラで指揮をされることと、バレエ音楽の指揮をされることの違いはなんでしょうか?

最近では、アムセテルダムのオペラハウスでサーシャ・ヴァルツ振り付けの、ベルリーオーズ作曲「ロメオとジュリエット」を指揮しましたが、ある意味でオペラと同じで、指揮をしながら、舞台を見つめながら、踊り手の呼吸をうかがう、という姿勢が大切だと思います。

石田種生が演出を手掛けた東京シティ・バレエ団「『白鳥の湖』~大いなる愛の讃歌~」の第4幕は、他の『白鳥の湖』公演とは一線を画すものです。また、今回は舞台美術に関しても、藤田嗣治の構想を新製作するものです。
指揮をされる際、こうした演出や舞台美術の違いが、何らかのインスピレーションやイマジネーションをもたらすこともあるのでしょうか?

私は、芸大の学生時代、指揮者のアシスタントの仕事を「長門美保歌劇団」にていただいておりました。その際、小牧正英先生をはじめ、石田種生先生、三林京介先生ら、日本の戦前戦後のオペラ、バレエ界の屋台骨となって支えてこられた方々と間近に接する機会にも恵まれました。戦前戦後というのは、そのままフジタの人生に大きな影響を及ぼしたことは言うまでもありません。
そのような日本の想像を絶するような難しい時代を生き、そこで創造活動をされてこられた方々には畏敬の念しかありません。
そういう方々だからこそ、チャイコフスキーの音楽の中に込められた、ドイツの古い伝説に根ざすグロテスクで混沌とした世界、フランス近代のドガの踊り子たちが飛び出してくるような洒脱さ、ロシアの大地から湧き起こってくる情緒的でしかも圧倒的な爆発力などを束ねることが出来うるのだと確信いたします。

逆に指揮をされる大野さまが、舞台や演じるダンサーに期待をするものがあれば教えてください。

ストラヴィンスキーが「火の鳥」を作曲した際は、カルサーヴィナやニジンスキーがストラヴィンスキーのピアノ伴奏で、懸命にストラヴィンスキーの不思議なリズムを身体に刻み込みました。
今回は、私もダンサーの皆さんの稽古にも参加し、安達さんとスクラムを組みながら、チャイコフスキーの音楽を丁寧に舞踏化するプロセスを踏まえたいと思います。

最後に、今回の「東京シティ・バレエ団創立50周年記念公演『白鳥の湖』~大いなる愛の讃歌~」を観にいらっしゃる皆さまに向けて、メッセージをお願いします。

東京シティ・バレエ団50周年記念の『白鳥の湖』は現在、過去の様々な人たちの思いが詰まった、“明日に架ける公演”です。
東京都交響楽団と私は、記念すべきこの公演に来られるすべての皆さんに、ダンサーの方々の、また偉大なる芸術家たちの思いをお伝えするため、心からの演奏を捧げさせていただきたいと思います。

PROFILE

指揮者

大野 和士 KAZUSHI ONO

1960年3月4日、東京都生まれ。神奈川県立湘南高等学校を経て、東京芸術大学指揮科に入学。ピアノ・作曲を安藤久義、指揮を遠藤雅古に師事。
1987年、アルトゥーロ・トスカニーニ国際指揮者コンクールで優勝。1988年、マタチッチもシェフを務めたクロアチアの首都にある名門ザグレブ・フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者に就任、程なくして音楽監督も兼務して1996年まで在任した。
1996年~2002年にはカールスルーエ・バーデン州立歌劇場の音楽総監督、2002年~2008年にはベルギー王立歌劇場(モネ劇場)の音楽監督を務めた。2008年からは、音楽監督が空席であったフランス国立リヨン歌劇場において、首席指揮者として活躍を始めた。
2007年9月29日、ヴェルディの『アイーダ』を指揮してメトロポリタン歌劇場にデビュー。
2012年、イタリア、パルマ、アルトゥーロ・トスカニーニ・フィルハーモニー管弦楽団首席客演指揮者に就任。
国内では、若杉弘率いる東京都交響楽団で指揮者に任命されたのを皮切りに、1992年から2001年まで東京フィルハーモニー交響楽団の常任指揮者を務め、現在は桂冠指揮者の称号を得ている。2015年4月より東京都交響楽団の音楽監督、また同年9月よりバルセロナ交響楽団の音楽監督を務めている。
2016年9月1日より新国立劇場のオペラ部門の参与に就任し、2018年9月1日より同芸術監督に就任予定。