火の鳥

火の鳥(世界初演)

振付
山本康介
KOSUKE YAMAMOTO

プロフィール

◎英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団入団後に数々の作品でプリンシパル、ソリストを務めた山本康介氏。NHK『ローザンヌ国際バレエコンクール』の解説者としても広く知られている山本氏が東京シティ・バレエ団の「トリプル・ビル2022」の『火の鳥』を振付する。どのような舞台になるのか?その魅力を紐解いて頂いた。

【テーマ1】まとう世界観と『火の鳥』である理由

質問1)ストラヴィンスキーの組曲としても有名な『火の鳥』1945年版を今回作品として選ばれたのはどうしてでしょうか?きっかけをお聞かせください。

昨年ストラヴィンスキー没後50年を迎え、彼の音楽で何かクリエーションしたいと思っておりました。安達先生よりオファーをいただいたとき、コロナ禍に入った一回目の緊急事態宣言が解除されたときだったので、何か明るい希望のあるテーマのものと自分のやりたいものが重なったものが『火の鳥』でした。
1945年版を選んだのは、近年は映像文化が私たちの生活のなかでスピーディーに変わり、より展開の早い作品を作っていくニーズを感じていたからです。またバランシン版がこちらだったり、第二次世界大戦の終戦したときだったりということも自分の後押しになりました。

質問2)『火の鳥』で表現して行こうと思われる世界観はどういったものと考えればよろしいでしょうか?

破壊と再生とでも言いましょうか…
人間の為にしていることが、自然界や地球環境のバランスを崩すだけでなく、人間自身にも有害なものを出してしまう。それが経済だったり生活だったり様々なしがらみで断ち切れないのですが、これは一刻を争う問題です。次世代のことを考えても、もう時間がないのです。
人間の企みや野心を火の鳥が鎮め、ひとりひとりが清いこころを持つことが新しい国の出発であることをこの物語は教えてくれます。

【テーマ2】「火の鳥」で表現されるもの

質問1)今回の『火の鳥』で踊るダンサーが身に付ける衣裳は現代人のフォーマルな服装(スーツ)だと伺っています。この衣裳スタイルの舞台にしようと考えられた理由を教えて下さい。

フォーマルなものにしたかったのではなく、今の日本の社会での習慣を見直して欲しいメッセージなんです。美しくない体に合っていない制服化されたスーツを着させられ、女性だからとか男性だからといったような見た目と習慣の矛盾が僕には不自然に写ります。全員同じことをするのが安心なのでしょうが、それぞれが認識と考えを持って行動や発信をする時代はとっくに来ています。

質問2)『火の鳥』は神話の世界では「不死鳥」とも例えられています。世界的パンデミックな状況に向けて勇気を与えるような舞台を期待してしまうのですが、そうした要素もあるのでしょうか?

もちろん、あります。パフォーミングアーツに関わる僕たちはダメージを受けました。今は公演ひとつひとつが上演できるか、関わるダンサー、スタッフのみんなが健康であるかそういった問題ですが、経済の歯車が狂い以前通りの公演形態が無理になってくると、新しい考えを持って新しいやり方を考えなくてはいけません。パンデミックが終わって始まることの方が大変になるのではないでしょうか?そういった時期にビジョンを持って立ち向かう為にはその向こうの明るいゴールや未来があるとわかるから頑張れるのだと思います。

【テーマ3】ダンサーに臨むもの、そして、観客の皆さまに期待していただきたいこと

質問1)『火の鳥』の舞台に立つ東京シティ・バレエ団ダンサーたちに臨むものは何でしょうか?舞台を創り上げる要素に関して教えてください。

舞台に上がるのに必要なことは、基礎能力を高めることと自身の創造性、感受性をより強く感じることだと僕は思います。発展的なテクニックも基本の積み上げや芸術思考を持ったイメージから成り立つものだからです。これにバレエ団の垣根もジャンルの垣根もありません。

質問2)最後に来場する観客の方に向けて、何かメッセージをお願いします。

このような時期でもダンサーたち、スタッフたちは芸術が社会に貢献し、人々のこころに希望を与えるものと信じて毎日、練習や業務をしております。そのとき、その場所でしか感じられない劇場に、どうかお越し下さい。

『火の鳥』の音楽

I.ストラヴィンスキーが作曲したロシアの民話に基づく1幕2場のバレエ音楽。バレエ・リュスの創設者であるS.ディアギレフが振付家M.フォーキンにまだ若手の作曲家だったストラヴィンスキーと相談しながら台本を作成するよう指示した作品。1945年版は後年、ストラヴィンスキーが大きく作風を変えた要素が反映されることが多いことで知られている。

<組曲構成>

1・2 序奏
3 火の鳥の前奏と踊り
4 ヴァリアシオン(火の鳥)
5 パントマイムI
6 パ・ド・ドゥ(火の鳥とイワン・ツァーレヴィチ)
7 パントマイムII
8 スケルツォ(王女の踊り)
9 パントマイムIII
10 ロンド(ホロヴォード)
18 凶悪な踊り
19 子守歌(火の鳥)
22 終曲の賛歌

『火の鳥』とは-あらすじ

舞台は、不死の魔王カスチェイの庭園。黄金の果実を目当てに、幸運の象徴とされる火の鳥がやって来る。そこへ、火の鳥を追っていたイワン王子が現れて捕まえる。
火の鳥は王子に懇願して黄金の羽根を差出すことで、見逃してもらい飛び去って行った。

その後、魔王カスチェイの城から、魔法にかけられた13人の王女たちが現れ、黄金の果実でたわむれ始める。そこへイワン王子が姿を現すと、王女の一人ツァレヴナと恋に落ちる。夜が明けると、轟音と共に城門が閉まり始め、王女達は驚いて城内へ走り去り、門は固く閉ざされる。すると魔王カスチェイの手下共が現れ、イワン王子を縛り上げてしまう。

魔王カスチェイが城に戻ってきて、イワン王子に魔法をかけようとする。イワン王子はすかさず火の鳥からもらった黄金の羽根を高くかざすと、火の鳥が舞い降り、魔物達を眠らせてしまう。そして魔法の木の根元を探すようにイワンに命じる火の鳥。するとそこには大きな卵が。それはなんと不死と言われている魔王カスチェイの魂が入った卵だった。

イワンはその卵を地面に叩きつけると、轟音と共にカスチェイの城と魔法は消え去り、魔王カスチェイも滅び去った。魔法から覚めて正気を取り戻した王女や貴族たち。イワン王子はツァレヴナと結婚し、大団円を迎える。

ダンサー、演出家
山本康介
Kosuke Yamamoto

<PROFILE>

美佳バレエスクールにおいて山口美佳に師事。1996年、13歳という若さで名古屋世界バレエ&モダン・ダンスコンクールにおいて審査員特別賞、ポーランド国立オペラ劇場からニジンスキー賞を受賞。1998年英国ロイヤル・バレエスクール入学。主席で卒業しニネット・デ・ヴァロワ賞も受賞。2000年バーミンガム・ロイヤル・バレエ入団。数々の作品でプリンシパル・ソリストを務め、バレエ団の公演においても振付を手がける。2010帰国後は、ダンサー、演出家、指導者として活動し、『プレミアムカフェ』(NHK)『ローザンヌ国際バレエコンクール』(NHK)の解説者としても出演。

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