東京シティ・バレエ団芸術監督/理事長
安達悦子より皆様へのメッセージ

 東京シティ・バレエ団は、2022年の幕開けに「トリプル・ビル2022」を上演、期待の振付家であるパトリック・ド・バナ、山本康介、そして、世界中で愛されるジョージ・バランシンの作品に初挑戦しようとワクワクしておりました。
ところが、新型コロナウィルスのオミクロン株出現による水際対策強化の影響を受け、演目の一部を変更せざるを得なくなりました。
海外から指導者が来日できず、上演に不可欠な対面による振付指導ができなくなってしまったため、バランシン振付の『Allegro Brillante』は中止せざるをえなくなりました。この状況下で皆様にお楽しみいただける作品を考えた時、最初に浮かんだのが、ウヴェ・ショルツ振付の『Octet』でした。ショルツはシュツットガルトバレエスクールからS A B(スクール・オブ・アメリカン・バレエ)に留学しますが、そこでバランシンに出会ったことが彼の創作活動に大きな影響を与えました。ショルツが率いていたライプツィッヒ・バレエ団でも、数多くのバランシン作品を上演していたことからも影響の大きさが見て取れます。

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 東京シティ・バレエ団は、ショルツ作品に出会い大きく飛躍することができました。ショルツがバランシン作品を好きだったということも『Allegro Brillante』上演のきっかけのひとつでしたので、ごく自然にショルツの『Octet』に移行することができました。

 『Octet』は、東京シティ・バレエ団では5回目の上演となります。エレガントな紳士淑女の人間模様がメンデルスゾーンの音楽に乗り、ショルツの音楽的で気品ある作風で描かれています。とても爽やかな作品です。2楽章の清水愛恵・濱本泰然、3楽章の福田建太など、これまで踊ってきたダンサーに加え、斎藤ジュンが初めて1楽章、4楽章のソリストを務めるなどフレッシュなメンバーとなっています。ショルツのミューズとして活躍された木村規予香さんが、丁寧に指導してくださっています。圧倒的な幸福感を感じられるこの作品は、新しい年の幕開けにピッタリだと思います。

 パトリック・ド・バナ氏の『Wind Games』は2020年7月に上演を予定していましたが、新型コロナウィルス感染拡大で中止となっていました。2019年にド・バナ氏が来日し振り付けてくださった時の感動を、きちんとした形に完成させお客様にお届けしたい、という思いがずっとありました。彼からも「シティのダンサーたちとリハーサルして創りあげたものがあるので上演したい」という強い思いがあり、今回の上演が実現しました。感無量です。1楽章はウィーン国立バレエ団で、2楽章は上海バレエ団で初演されました。3楽章を含めての完成上演は、東京シティ・バレエ団が初めてとなります。
現在は、ド・バナ氏とZOOMで繋がりながらリハーサルを進めています。主演は彼が抜擢した植田穂乃香と、最近コンテンポラリー・ダンスの評価も高いキム・セジョンです。加えて、ド・バナ自身が選んだダンサーたちが踊ります。2年前に彼との信頼関係を築けたからこそ実現した、コンテンポラリー・バレエ『Wind Games』。ド・バナ氏との親交が深い、三浦文彰氏によるチャイコフスキーのヴァイオリンコンチェルトでの上演という点でも期待が膨らみます。ド・バナ氏がこの音楽を聴いたとき、平原を駆け抜け鷹を放って狩猟をする遊牧民の姿が浮かんだそうです。風にその身を預け、まるで風と遊んでいるように地上を見下ろす鷹のイメージから『WIND GAMES』と名付けたとのこと。彼の中の鷹のイメージ、東洋的なイメージを体現するダンサーたちの情熱のこもった踊りにご注目ください。

 そして『火の鳥』です。以前から、山本康介氏に作品をお願いしたいと考えており、その念願かなって、ストラヴィンスキーの『火の鳥』を新たな形で誕生させることができました。クラシック・バレエの技法に和のテイストを加味した、音楽的な作品に仕上がっています。日本人としてロイヤル・バレエ・スクールで育ち、バーミンガム・ロイヤル・バレエ団で活躍した山本氏ならではの作品です。衣裳は、桜井久美さん(アトリエヒノデ)にお願いしました。偶然にも『火の鳥』を手掛けてみたいと思われていたそうで、素敵な縁を感じます。笹口悦民さんによる映像も、山本氏のイメージを膨らませてくれると思います。タイトルロールの火の鳥を中森理恵、イワンを濱本泰然、カッチェイを内村和真、そして新鋭の清田カレンが王女を踊ります。12人の侍女と12人のカッチェイの手下による踊りも迫力があり、ダンサーは皆、山本氏の高度な要求に果敢に挑戦しています。『火の鳥』は元々、バレエ・リュスを率いるディアギレフが若きストラヴィンスキーを抜擢した作品です。1910年、ミハイル・フォーキンの振付によりパリ・オペラ座で初演されました。今回、山本氏が使用した楽譜はバランシンとロビンスの振付によってニューヨーク・シティ・バレエ団で上演された時と同じ1945年の組曲版です。グローバルな時代となり、日本のバレエ界にも世界中から多くの情報が入ってくるようになりました。そんな中、日本独自のバレエスタイルを見出そうとしている山本氏が「にほんのこころ」をテーマに創作してくださいました。ハッピーエンドが意味するところは何なのか。東京シティ・バレエ団に誕生した『火の鳥』にご期待ください。