Synapse

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INTERVIEW
振付
中弥 智博
Toshihiro Nakaya

PROFILE

<PROFILE>
12歳よりアートバレエ難波津にてバレエを始める。2000年より夏山周久氏に師事。01年米国Walnuthill Schoolへ留学。09年松岡伶子バレエ団入団。『ジゼル』アルブレヒト、『レ・シルフィード』詩人、『ロミオとジュリエット』マキューシオほか多数出演。同団アトリエ公演にて、13年『sinfonia eroica』、14年『syNapse』、15年『Vivace』『Blind sense』など自身の振付作品を発表。16年東京シティ・バレエ団入団。『白鳥の湖』パ・ド・トロワへの抜擢に続き、『くるみ割り人形』コクリューシュ王子で初主演を飾る。17年『Octet』(ウヴェ・ショルツ振付/日本初演)ソリスト、『コッペリア』フランツで主演し、「シティ・バレエ・サロン」にて振付作品『numero5』を発表。18年、オーケストラwithバレエ『ペール・ギュント』の振付に抜擢され好評を得る。

『くるみ割り人形』コクリューシュ王子
©鹿摩 隆司

『Synapse(シナプス)』をネットで検索すると、細胞生物学や脳科学の解説が最初に目に飛び込んできます。意味内容は、「神経情報を出力する側と入力される側の間に発達した、情報伝達のための接触構造である。」といった文言が並び、それだけだと、なんとなく難しいもののように感じてしまいます。
単純に、「神経細胞同士をつなぐ役目のもの」という捉え方の鑑賞で合っているでしょうか? その点も踏まえて、『Synapse』というタイトルに込めた想いをお聞かせ下さい。

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まさしく神経細胞の名前です。
ですが、その神経細胞を作品で表現したかった訳ではなく、結果としてそれになりました。
感情の素になるエネルギーの様子を美しくするとどうなるだろう、それが踊りの中で表現出来たら美しいだろうなと。どんな花が咲くのか分からないがこの種を植えてみよう。その種はエネルギーで、そのエネルギーは人それぞれの経験や知識によって形を変えて幾通りもの感情になって現れていると感じていました。

そんな事を考えながら作品を作っていき、気がついたらそれが『Synapse(シナプス)』という神経細胞に似ていると思い、そう名付けました。

『Synapse』で表現して行こうと思うバレエの世界観とは、どういったものと考えればよろしいでしょうか?

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観てくださる皆さまの好きな様に、その形を作ってもらって良いものだと思います。
私からの提案は、みなさまの『Synapse』を、作品を観ることによって作っていただきたいということ。もしあなたの中にこれを見て楽しい気持ちが出来たのなら、それはあなたのエネルギーがその感情に形を変えたことで、もし悲しい気持ちになったのならそれもまたあなたのエネルギーが向かわせた先がそうであったと。

この作品のメインテーマで終曲になっているハイドンの弦楽四重奏曲を初めて聞いた時、私の心は大きく揺さぶられました。自分の過去から現在までを通してこれほどまでに音楽に感動したことはありません。ぜひこの音楽の中でダンサーを踊らせたいと強く思いました。その感動は私のエネルギーで、それはダンサーを通じてこの作品に注ぎ込まれたはずです。ぜひそれを受け取っていただければと思います。

今回のトリプル・ビルでこの『Synapse』を再構成したいと思ったきっかけがあれば教えて下さい。

この作品の初演は2015年でした。それから回を重ねてバレエ団では初となる今回の上演が4回目の再演となります。
これは私の2作目の作品で、初演当時には評論家の方々からたくさんアドバイスをいただいた事を覚えています。まだ経験も浅い私が必死に作った作品だったので未熟なところもありましたが、幸運なことにその後再演を重ねることが出来て私の成長と共にこの『Synapse』もまた成長してきたと思います。そして今回シティ・バレエ団の『トリプル・ビル』の1つを担う作品として、共に育ってきた『Synapse』をぜひみなさまにご覧頂きたい、そんな思いで再構成しようと決めました。

10月の『ペール・ギュント』公演から半年足らずで挑む形になります。創作に掛ける時間にしては短いと感じてしまうことはないのでしょうか?

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構想としては10月の公演の前には『Synapse』を上演しようという話が出ていたので、正直この頃は2作品を頭で同時に考えて進めていくという作業が始まっていました。それでもバレエ団ではその間にも色々な公演が催されていて、実際にダンサーと一緒に作品を作る時間という意味では確かに短いと思います。

再演だとしても構成に変化があり、ダンサーも初めてでという状況で果たして間に合うのかという不安ももちろんありましたが、今のシティ・バレエ団はこうやって忙しく公演を重ねることが出来ていることをとても喜んでいます。
制約のある中でやれる事をしっかりやるという意味では短いとは言えず、むしろちょうどいいと思っています。

今回のこの『Synapse』の振付・演出で力を入れている点に関して教えて下さい。

これは私の作品全てにおいて共通している部分ではありますが、音の使い方やその曲の持つエネルギーを振付や演出に反映しているつもりです。そしてダンサー達が舞台上で自分自身に向き合う時間を作ってもらうことを目的として演出しています。きっとそれは人が美しく見える瞬間ではないかと私は考えています。
音楽とダンサーのエネルギー、そして劇場全体の集中力によって『Synapse』がたくさんの感情を生み出す事を楽しみにしています。

トリプル・ビルバレエミストレス対談

中弥 智博(振付)
山口 智子(バレエミストレス)
岡 博美(バレエミストレス)
※2019年2月13日 東京シティ・バレエ団スタジオ

この特設サイトでは、2018年7月公演の『ウヴェ・ショルツセレクション(Octet / ベートーヴェン交響曲第7番)』にひき続き、山口さんにお話しを伺います。また、岡さんは、ダンサーとして、バレエミストレスとしてのお立場の両方で、お話しを伺いたいと思います。バレエミストレスとして中弥さんの作品のご指導をされるのは、今回で何回目くらいでしょうか? 指導の際に心掛けていらっしゃる点があればお聞かせ下さい。

:『numero5』『ペール・ギュント』『PICK』に続き、今回で4回目になります。

山口:私は初めてですね。先ずは、中弥さんが求めているニュアンスを壊さないよう心がけています。

:私も山口さんと同じです。あとは、ダンサーそれぞれの特徴や身体が違うことで見つかる動きをアシストができるか……という部分を心がけてやっています。

インタビューで中弥さんから「『Synapse』を例えるのに、「幾通りもの感情となって現れるエネルギー」というキーワードを頂いています。また、ハイドンの弦楽四重奏曲を通して、感情のエネルギーがダンサーに注ぎ込まれるという話も伺っています。ダンサーの魅力を引き出すための意気込みや想いに関して、それぞれお聞かせ下さい。岡さんには踊り手としてのご意見も併せてお願いします。

山口:古典バレエのように形が決まっていないので、よりダンサーの個性が出ると思います。ですが、中弥さんが持っているニュアンスから逸脱しないように、それぞれの魅力が出れば良いなと思います。また、ダンサーたちの作品に対する思いが同じ方向に向かっていくようアドバイスしています。きっと毎日のリハーサルを重ねていくうちに、近付いていくと思います。

:私が中弥さんの振付けをもらう時はいつも、できる限り中弥さんの動きをコピーしていきます。ミストレスになっての発見は、そのコピーの仕方も人によって違いがあって、見えているものがここまで違うのかという驚きでした。
今回主演するうえで心がけているのは<目線>です。『Synapse』を踊っている時は“人じゃない”ことを意識していたくて。目の動き……どこをどんな風に見ているかは、表現するにあたってとても大切な部分だと思っています。目の感覚で作品のエネルギーが伝わるんじゃないかなと。目線の使い方や、相手を“見る”感じがあまりにも人間臭くならないように、表現の中で無機質になるように心がけています。

中弥:今回出演するダンサーたちは、決して「Synapseという細胞自体」でも「エネルギーそのもの」でも無くて。とても抽象的な表現になっています。

リハーサルを見させていただいて、岡さんや他のダンサーたちの豊かな表情がとても印象的でした。表情については、中弥さんからの指示はあったのでしょうか?

中弥:僕からは“感じたまま踊って欲しい”と伝えました。
作品の最初に、何かものを集めてくる動きがあって。それが「種」なのだとしたら、種を蒔いてそこから始まっていく……というイメージなんです。その「感情の種」がどう変わっていくかは、ダンサーたちに委ねています。「あのことであの動きになるのだったら、この人はこうなるでしょ」とダンサーが感じて笑ったのであれば、それは彼らの持つベースです。

:ダンサー全員の個性を大事にしていますね。

──同じシーンでもダンサーによって少しずつ表情が違ったので、まだ統一されていないのかと思ったのですが、それは自分の内から出るものを表現しているという事なのですね。

中弥:1~7曲目までは、作品として感情の入れ替わりがあります。そして迎える終曲では「自分自身との対話をする」という、感情の根本を表現していて。そこでダンサーたちは、自身に対しての集中力を、舞台上で全開に発揮しながら動きをする。その音楽と振り(動き)とイメージがマッチすると、すごく綺麗なものになる……と僕は思っています。人の心の芯の部分というか。ダンサーたちにその「心の芯」を見せて欲しいという想いが、あえて統制された終曲のフォーメーションに繋がっていきます。

山口:作品前半の感情についても、お客様それぞれが感じて捉えていただきたいです。その人なりの解釈で見ていただきたいと思っています。

中弥:この作品は4回目の上演になりますが、終曲はお客様によって全く見え方が違うそうです。清らかだったり悲しい気持ちだったり、すごく楽しくなったという方もいて。ダンサーが踊った時に出した感情……はじめに植えた種がどのように花開くか。それは、客席でお客様がどう受け取ったかということです。
だからこそ、ダンサーたちの集中力やエネルギーは絶対に必要なものなんです。

今回のトリプル・ビルは創作バレエ2本と古典バレエ1本という異なるタイプのバレエを楽しめる、東京シティ・バレエ団ならではの公演になると思います。古典バレエと創作バレエを指導する際に意識されている要素があれば、それぞれ教えて下さい。また、踊り手として2つのタイプのバレエ作品を表現する際の違いに関して、お聞かせ下さい。

山口:古典バレエに関しては、様式・ポジション等を私は注意して見ています。でも、創作バレエはそこから飛び出して(もちろん芯は同じだと思いますが)もっと自由に「音楽が身体の中を流れて一緒に動くように」ダンサーに求めています。そういったことを感じることができると、古典バレエを踊る時にもプラスになり、表現者としての幅がもっと広がると思います。

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──今回は『眠れる森の美女』と『Synapse』両方に出演するダンサーも多いので、是非とも目指したいですね。

:古典バレエを踊っている時はすごく「軸」を注意しますし、ポジションや様式など守るべき事が多いのですが、その中でどこまでの表現ができるかを大切にしています。創作バレエになると、古典バレエのような地球に生えているような「軸」とはかなり違っていて、中心を感じながらも「地球の上で遊ばせてもらっている」ような感覚があります。上下左右関係なく、大きくエネルギーを動かしていくように心がけています。

山口:音楽には、うねりがありますよね。ダンサーたちも、空気を動かして「曲のうねり」と一緒に動くと、すごく楽しいと思います。そうすると、観ている方の感じ方もかわるのではないでしょうか。それは古典バレエでも同じだと思います。創作バレエの表現に慣れると空間を感じることにも慣れるので、その感覚を見つけていって欲しいです。

中弥:古典と創作の違いを一つ挙げるとしたら、身体の使い方はもちろん「キャラクターがあるかないか」ではないでしょうか。古典バレエにはほとんどの場合キャラクターがあって、自分がその役柄に寄せていくという踊り方をします。創作バレエは、例えば今回の『Synapse』ではダンサーたちは抽象的なものなので、表現力の幅を見せなければならない最も難しい部分だと思いますが、そこがあるかないか、は作品の良し悪しにもダンサーの技量にも繋がってきます。どこまで「個(自分、ダンサー、表現者)」を出せるかといったところが大きいです。自分も古典と創作では、踊る際の心持ちが全く違います。これは、創作をし始めてからより強く意識するようになりました。

最後に、それぞれ観客の皆さまに向けたメッセージをお願いします。

中弥:一人でも多くの方に、舞台……芸術というものに触れていただきたいです。古典! 全幕! のような堅い企画ではないので、ふらっと劇場に立ち寄っていただいて様々なタイプの作品に少しずつ触れていただければ。そこから「芸術っていいな」と思っていただきたいのが、東京シティ・バレエ団の作家としての想いです。

山口:今回は期待の精鋭達も多く出演しているので、ダンサー一人ひとりの魅力が伝わればいいなと思います。

:今回は、創る側も踊る側も全てを「東京シティ・バレエ団」でおこなっているので、これはとても素晴らしいことだと自信を持って言えます。
是非、ティアラこうとうへお越し下さい!

  • 中弥 智博
    Toshihiro Nakaya

    <PROFILE>
    12歳よりアートバレエ難波津にてバレエを始める。2000年より夏山周久氏に師事。01年米国Walnuthill Schoolへ留学。09年松岡伶子バレエ団入団。『ジゼル』アルブレヒト、『レ・シルフィード』詩人、『ロミオとジュリエット』マキューシオほか多数出演。同団アトリエ公演にて、13年『sinfonia eroica』、14年『syNapse』、15年『Vivace』『Blind sense』など自身の振付作品を発表。16年東京シティ・バレエ団入団。『白鳥の湖』パ・ド・トロワへの抜擢に続き、『くるみ割り人形』コクリューシュ王子で初主演を飾る。17年『Octet』(ウヴェ・ショルツ振付/日本初演)ソリスト、『コッペリア』フランツで主演し、「シティ・バレエ・サロン」にて振付作品『numero5』を発表。18年、オーケストラwithバレエ『ペール・ギュント』の振付に抜擢され好評を得る。

  • 岡 博美
    Hiromi Oka

    <PROFILE>
    3才よりバレエを始める。第2回、Osaka Prixバレエコンクール、ジュニア第1部第3位。2005~08年、ロシア国立モスクワバレエアカデミーへ留学。08年、全国バレエコンクール in Nagoya、シニアの部入賞。09年、東京シティ・バレエ団入団。以降、「コッペリア」スワニルダの友人、祈り、「くるみ割り人形」アラブソリストなど、主要な作品にソリストとして全て出演。「白鳥の湖」三羽の白鳥、「ジゼル」ミルタ、「ロミオとジュリエット」キャピュレット夫人のほか、数多くの創作作品でもソリストとして踊る。

  • 山口 智子
    Tokomo Yamaguchi

    <PROFILE>
    八重沢美祢子バレエ教室、石井清子バレエ研究所を経て、1980年、東京シティ・バレエ団入団。87年、韓国ユニバーサルバレエ団のアジアツアーに参加。91年、勅使河原三郎+KARASの《dah-dah-sko-dah-dah》に出演。東欧などを巡る。92年、文化庁派遣芸術家在外研修員として、サン・フランシスコ、ニューヨーク、ロンドンに一年留学。当団では「コッペリア」「くるみ割り人形」「シンデレラ」「ヘンデルとグレーテル」等に数多く主演。2004年、野坂公夫、坂本信子率いるメトロポリタンバレエの一員としてスロバキア公演に参加。現在、当団ミストレス、当団付属バレエ学校教師。

INTERVIEW
振付
中弥 智博
Toshihiro Nakaya

PROFILE

<PROFILE>
12歳よりアートバレエ難波津にてバレエを始める。2000年より夏山周久氏に師事。01年米国Walnuthill Schoolへ留学。09年松岡伶子バレエ団入団。『ジゼル』アルブレヒト、『レ・シルフィード』詩人、『ロミオとジュリエット』マキューシオほか多数出演。同団アトリエ公演にて、13年『sinfonia eroica』、14年『syNapse』、15年『Vivace』『Blind sense』など自身の振付作品を発表。16年東京シティ・バレエ団入団。『白鳥の湖』パ・ド・トロワへの抜擢に続き、『くるみ割り人形』コクリューシュ王子で初主演を飾る。17年『Octet』(ウヴェ・ショルツ振付/日本初演)ソリスト、『コッペリア』フランツで主演し、「シティ・バレエ・サロン」にて振付作品『numero5』を発表。18年、オーケストラwithバレエ『ペール・ギュント』の振付に抜擢され好評を得る。

『くるみ割り人形』コクリューシュ王子
©鹿摩 隆司

衣裳についてお聞かせ下さい。

古典バレエに比べて創作バレエの舞台衣裳は、観客のイマジネーションを膨らませるアイテムとして、役割が大きいのでは?と思います。

感情や感動のエネルギーをダンサーが身にまとうような、観る側もそのエネルギーを感じられる衣裳デザインを期待していても、よろしいでしょうか?

『Synapse』の衣裳は、ただダンサーが身に纏っているものではなく、振りの中でスカートが後から寄ってくるなど、動きの余波がスカートに伝わるまでを振付の一部として作り上げました。ダンサーの動きが衣裳にそのまま伝わり、踊りのエネルギーが衣裳に注ぎ込まれることによってこの作品が完成します。衣裳としての役割ではなく、舞台装置のような役割を果たしていると考えています。
ダンサーの動きのみならず、それに伴うスカートの動きやベルベット生地の光沢の出方を含め、『Synapse』の作品として楽しんでいただきたいです。


CAST

振付:中弥 智博 / ミストレス:山口 智子 岡 博美

岡 博美
Hiromi Oka
PROFILE
福田 建太 (2日)
Kenta Fukuda
PROFILE
キム・セジョン (3日)
Kim Se-Jong
PROFILE
その他キャスト 平田 沙織大内 麻莉榎本 文春風 まこ馬場 彩庄田 絢香新里 茉利絵
山﨑 茉穂石塚 あずさ且股 治奈島田 梨帆山本 彩未
沖田 貴士土橋 冬夢吉野 壱郎杉浦 恭太

※出演者は変更となる場合がございます。