MESSAGEご挨拶

東京シティ・バレエ団
芸術監督/理事長

安達 悦子

 昨年、新型コロナウィルスのパンデミックは、バレエ界も大きな影響を受けました。東京シティ・バレエ団も例外ではなく、春、夏を経て、公演再開は秋以降となりましたが、2021年は、気持ちも新たに「ウヴェ・ショルツ・セレクションⅡ」で美しい舞台をお届けいたします。
本公演では、指導のジョヴァンニ・ディ・パルマさん、木村規予香さんと対話を重ね、感染対策も考慮し、皆さまにすがすがしい気持ちで劇場を後にして頂ける3作品をご用意致しました。

『Air!』はウヴェの出世作で日本初演となります。彼が23歳の時の作品で、シュツットガルト・バレエ団の名花、ディレクターのマルシア・ハイデがこの作品を見て、彼を座付き振付家に抜擢したという秀逸な作品です。遊び心と音楽との戯れを感じるウヴェの原点のようなこの作品を、皆様にご紹介できることを嬉しく思います。

『天地創造』より、アダムとイヴのパ・ド・ドゥは、ヨーロッパではガラコンサートでもよく上演されている美しいパ・ド・ドゥです。大作『天地創造』のハイライトである人間アダムとイヴの誕生を、ハイドンのオラトリオに乗せて、ウヴェの世界観で魅せてくれます。

『Octet』は東京シティ・バレエ団では4回目の上演となる、圧倒的な幸福感を感じられる作品です。エレガントな紳士淑女の人間模様が、ウヴェの音楽的で気品のある作風で描かれています。回想のようなシーンもあり、皆さまには、ご自身の物語と重なる部分もあるのではないでしょうか。メンデルスゾーンの音楽に乗って、とても爽やかな気持ちになります。

 東京シティ・バレエ団は、古典と創作を両輪としています。創作バレエには(古典バレエではないという意味において) 新作のクリエイションと近年創作された作品をレパートリーに加えるという二つの要素が含まれています。レパートリーに加える作品は、音楽的なバレエ団にしたいという私の就任当初の目標と、何度でも上演できる作品を、ということを踏まえて選びたいと考えていました。そういった意味でも、ウヴェ・ショルツ作品との出会いは、幸運でした。

『Air!』が初演された翌年の1984年、恩師であるアレックス・ウスュリャク先生から「ヨーロッパに来なさい。」という手紙をいただきました。その中に「ウヴェ・ショルツという若い振付家も紹介したい」と書かれていました。結局、その時ヨーロッパに行くことはできませんでしたが、ウヴェの名前は印象に残りました。
2009年、芸術監督就任前に文化庁在外研修員として再度ヨーロッパを訪れたとき、再びアレックス先生からウヴェ・ショルツのこと、そして、ウヴェのミューズとして活躍した規予香さんが日本に帰国したことを知らされました。
彼女は、モナコ王立グレースバレエ学校で一緒に学び、気心が知れた友人です。早速相談し、2013年に『ベートーヴェン交響曲第7番』を日本初演上演する事になりました。以降、東京シティ・バレエ団はウヴェ・ショルツの作品をレパートリーとする日本で唯一のバレエ団となりました。
運命的ともいえるこの流れは、今は必然だった、と感じています。

 規予香さんとジョヴァンニさんは、ウヴェの真髄を体現する舞踊家で、『ベートーヴェン交響曲第7番』の当団初演時から、ダンサーがウヴェのエッセンスを確実に表現できるように、情熱を持って指導してくださっています。
ジョヴァンニさんの持つ素晴らしい指導力とカリスマ性により、ダンサーたちが限界を超え、ウヴェの世界を表現できるようになっていく様子は、毎回驚嘆しています。そして規予香さんの指導中に見せるシュツットガルト・バレエ団やライプツィヒ・バレエ団で踊っていたバレリーナとしてのオーラはもちろん、忌憚のない意見や的確なアドバイスにハッとさせられることが多々あります。

ウヴェの作品は音楽そのものです。ジョヴァンニさんは音楽を細部まで聴き込み、音楽と一体になって踊ることを大切にしています。ただステップを踏むのではなく、音楽に深く身を寄せそこに感情を乗せて行くよう、2人は諦めずに忍耐強く導いてくださいます。

 今回もまた、ダンサーたちはジョヴァンニさんの厳しい要求に全身全霊で応えています。踊れない時期を過ごしたダンサーにとって、スタジオで過ごす時間は今まで以上に神聖なものになり、踊る喜びを舞台から皆様にお届けすることでしょう。今こそ、芸術や文化の力は心を豊かにすることを実感しています。
私たちは「ウヴェ・ショルツ・セレクションⅡ」を新たな出発点として、新たなる感動をお届けして参ります。
これからも温かい応援を、よろしくお願い致します。