愛知県出身。早稲田大学第二文学部卒業後、「工房いーち」林なつ子氏のもとで衣裳制作を学ぶ。イタリアに渡り、国立美術学院 Accademia di Belle Arti di Rome にてディプロマ修得。琵琶湖ホールのヴェルディ・オペラシリーズでスティーブ・アルメリーギ氏のアシスタントを務めデザインの現場で研鑽を積む。アントニー・マクドナルド、ロバート・パージオーラ各氏の衣裳アシスタントを担当。日生劇場『マクロプロス家の事』、東京二期会『ワルキューレ』『カプリッチョ』『カヴァレリア・ルスティカーナ』『パリアッチ』『チャルダーシュの女王』、東京室内歌劇場『曽根崎心中』『オルフェオ』『妻を帽子と間違えた男』『往きと復り』などの衣裳をデザイン。東京シティバレエ団では『ロミオとジュリエット』『ジゼル』『白鳥の湖』の衣裳を手がける。ローマ在住。
普段イタリアで生活していますとつい見過ごしてしまいますが、ローマの中心地を歩いているとあちらこちらにあまりに無造作に存在するローマ時代の遺跡やルネサンス、バロックの建物の遺構に出会うことがあります。かつてここで生活していた人達がいた、そんな息づかいを感じる瞬間です。
14世紀のイタリア半島は沢山の国に分かれていてまだ“イタリア”という国はなかったので、ヴェローナとローマとでは全く雰囲気が違ったのではないかと想像できます。ルネサンス期の輝いていたイタリア半島の街の喧騒と情熱を少しでも表現できたら、面白くなるのではないかと思いました。
この作品は群像を描くシーンが多く、そこが魅力でもあります。特に舞台上に登場人物が多い時、少し時代が下がりますが1400年代半ばくらいのイタリア・ルネサンス絵画の群像のイメージに近づけたいと思いました。
そこには、分量の多めの生地で出来た彫刻的な衣服を纏った人々が描かれています。踊るには少し重いものもあると思うのですが、群舞のシーンではその見た目の重量感もドラマティックな音楽に合うのではないかと思いました。
この作品では大抵そうだと思うのですが、まず両家を分かりやすく色で分けてみました。ヴィジュアル的に一番効果があるのが色なので、色で群像を分けることで対立関係がはっきり出るからです。
特に主人公2人の出会いのシーン、キャピレット家の舞踏会では、キャピレット家の赤い群像に紛れ込んだロミオと無垢なジュリエットを鮮やかに浮かび上がらせたいと思い配色を決めました。
前回もお答えいたしましたように、時代物の衣服が好きでこの仕事を始めました。バレエの衣裳は踊れなくてはいけませんが、物語に時代背景がありますのでその雰囲気を出すシルエットにしたいという気持ちがあります。「踊り」という制約の中にこそ、バレエ衣裳の様式美があるのだと思います。ですが、この様式美と一見相容れないようにみえる形、重量感をいかにみせるか。
「ロミオとジュリエット」の衣裳はローマの工房FARANIで製作しました。イタリア人の形へのこだわりは生地の分量、カット、造型的なボリューム感、いろいろなところに感じられます。古いものを知ってこれを活かす仕事を学ばせてもらいました。これも「温故知新」のひとつのあり方なのだと思います。