LIGHTING照明

INTERVIEW
『ロミオとジュリエット』舞台転換を効果的に魅せる照明演出
照明
足立 恒
Hisashi Adachi

<PROFILE>

87年~88年 文化庁派遣芸術家在外研修員として、パリ・ニューヨークにて、オペラ、バレエの照明を研修。Jennifer Tipton女史の下、エール大学演劇科にて照明論を学ぶ。
バレエでは、東京シティバレエ団・日本バレエ協会・谷桃子バレエ団・スターダンサーズバレエ団・などの主要公演、熊川哲也“Kバレエカンパニー”の全作品を担当している。そのほか、創作作品やコンテンポラリーダンスなど数多く手がけている。
受賞:02年 日本照明家協会賞大賞 03年 橘秋子賞・舞台クリエイティブ賞

バレエの舞台は様々な構成要素(演出、踊り手、音楽、美術、衣裳等)が織りなす形で舞台創りが成されています。その中で、舞台照明は、どういった役割を担うものとお考えでしょうか?

舞台上で行われる行為=演技・振付、存在する物=舞台装置・衣装、時の経過=音楽の流れ・旋律……これらを演出の意図の中で結び付ける、最後に登場する手段。
それは、時の経過や季節・場所の状況を表現するという光の具体性だけでは無く、現れる表情と感情、あるいは隠された心理をも、変幻自在な光の変化と時間軸の制御によって、観客の皆さんに劇的感動を伝える一助になり得るのではないかと思います。

舞台照明は模型で再現する事も、衣装のように稽古場で実際に試す事も出来ません。
緻密に練り上げられ、長い時間を費やしてリハーサルを繰り返してきた作品を、本番直前の舞台上でしか確認出来ないのが宿命です。
その反面、他のジャンルに比べ試行錯誤が比較的容易だという特性があります。劇場に入ってからは、玄関を上手から下手に変えられません。衣装の赤を黒に直す時間もありません。その様な舞台に乗せてはじめて見えてくる問題に対し、照明はある程度対応可能なのです。視覚的演出の調整役という立場が現代の照明に多く求められていると思います。

足立さんは、今まで数々の舞台照明演出を手掛けていらっしゃいます。そのご経験の中から伺いたいのですが、『ロミオとジュリエット』の舞台照明で特徴的な要素を挙げるとすればどういったものが挙げられるでしょうか?

誰もが知っている悲劇が、初めて見る物語の入り口のように見えてくれればうれしい事です。写実的に構成された舞台に比べ表現の自由さの巾が広い事がこの『ロミオ&ジュリエット』の特徴です。
ほんの数十秒の序曲に、物語の全てを織り込むイメージ、そんな作業が至る所に隠し味のように施せる舞台装置と、そのもの自身が発光しているかの様な衣装に感謝しています。

これは、音楽の井田先生にも伺ったご質問なのですが、照明演出のお立場からお願いします。
照明もその舞台環境によって、照明演出の仕方が大きく左右されるのでは?と思います。
今回の「ティアラこうとう」の舞台で照明の工夫・魅力を出していくとすればどういったところでしょうか?

この作品は、「ティアラこうとう」と「新国立劇場」で上演を重ねてきました。
劇場の規模としては最新鋭の設備を誇る新国中劇場とここ「ティアラこうとう」では舞台の大きさは勿論、客席との距離感も大きく違います。
逆に言えば、「ティアラこうとう」で生まれた作品だからこそ、装置のスピーディーな展開や光の効果による集中・拡散が生まれる発想の源があったように思います。

幕が開いた瞬間から奥行きが無限につづく空間のように見えること。
決して全てをあからさまにさらけ出すのではなく、「光と影」の影を強調出来ればと思っています。

最後に、『ロミオとジュリエット』は、登場人物の多さに加えて、可動式の舞台と相まって場面転換がとても多い舞台になります。照明演出を通して、観客のイマジネーションを膨らませていくテーマがあれば、是非お聞かせください。

“プロコフィエフの音楽がもう全てを語っている”ということに尽きます。
きっと、それは演出の基本ラインでもあるはずです。
私達はその音楽の意図に寄り添いつつ、自由に表現すればいいだけなのです。
中島演出もそのライン上にあるものととらえ、あの一杯飾りの硬質な舞台美術(江頭良年)の中でも中世の人間模様が何の違和感も無く展開されるのでしょう。

どこが建物で、どこが空か。どこまでが舞踏会の部屋で、どこからがバルコニーになるのか……。限られた空間の中で、ほんの少しのイメージを投げかけるだけで成立してしまうこの装置を、照明家的発想で存分に使わせてもらいました。